第6回ヘルスケアベンチャー大賞

第1回ヘルスケアベンチャー大賞 実施報告

坪田一男
イノベーション委員会委員長
坪田 一男

今回は念願の第1回ヘルスケアベンチャー大賞が大成功に終わったので、その報告である!堀江理事長になって2017年に抗加齢医学会にイノベーション委員会ができた(表1)。

 表1:日本抗加齢医学会イノベーション委員会名簿
【イノベーション委員会】
■委員長
 坪田 一男(慶應義塾大学医学部眼科学教室 教授)
■委員
 堀江 重郎 (順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学 教授)
 森下 竜一 (大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 教授)
 木下  茂 (京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学 教授)
 佐野 元昭 (慶應義塾大学医学部循環器内科 准教授)
 満尾  正 (満尾クリニック 院長)
 新村  健 (兵庫医科大学総合診療科 主任教授)
 古家 大祐 (金沢医科大学糖尿病・内分泌代謝内科 教授)
 江幡 哲也 (株式会社オールアバウト 代表取締役社長)
 福田 伸生 (バイオ・サイト・キャピタル株式会社 専務取締役)

この委員会では抗加齢医学の中からイノベーションを起こし産業化を学会としても推進していきたいとの思いからあらたに作られた委員会だ。ご存じのように現在の保険医療の中で良い医療をすればするほど外貨が流出する。図1)

 図1:医薬品医療機器貿易赤字推移

 ある日の外来を見てみよう。前日角膜移植と白内障の同時手術をした。患者様は大喜び。今まで見えなかった目が見えるようになり、“坪田先生、ありがとうございます。これで日常生活が送れるようになります”と感動である。医師である僕もとってもうれしい。医者になった甲斐があった!!目の前の患者様を最高の医療によって治療し喜ばれた。こんな素晴らしい場面はない。でもここに問題がある。僕の使った手術顕微鏡はドイツのツァイス社製、角膜はアメリカアイバンクからの輸入、使った眼内レンズはアメリカのAMO社製、白内障手術装置はアルコン社アメリカ製だ。世界最高の医療を行うには海外のものを使うしかなく、それによって外貨が流出するのだ。

 すなわち日本の医療の競争力が世界に対してまだまだ足りない。日本全体では図1のように医薬品で3兆円、医療機器で1兆円の輸入超過となっている。合計4兆円。これだけの外貨を他の産業で取り戻すことは大変なことだ。自動車産業以外で4兆円の輸出額をもっている産業自体が育っていない。さてアンチエイジング医学の領域でもこのままいくと日本は同じことになりかねない。世界で一番長寿なごきげんな国のアンチエイジング医学を行うことによって、抗加齢医学会の先生方が良い診療を行うことによって貴重な外貨が失われていくのはぜひ避けたいところである。むしろアンチエイジング医療産業が日本で花開くことによって日本発のアンチエイジング医学が世界で使われ、世界の人をごきげんにして、それによって外貨をかせいでゆく。これがあるべき姿ではないであろうか!なので今坪田はイノベーションに燃えている!微力ながらお役にたちたいと考えているのだ。 なんとかこの状態を打開したい!日本の健康産業、医療が外貨を逆に稼げるようにしていきたい!

日本政府もさまざまな法律を整備

次世代の産業を作るためにはアカデミアの力も必要だとの認識から政府は学校教育法を2015年に変更し大学の責務に教育と研究に加えてイノベーションを追加した(図2)。従来から大学の責務は教育と研究であったが、そこにイノベーションが加わった。

 図2:2015年に改正された学校教育法

 大学で行われた研究もいち早く社会に届けることによって産業につなげようという考えである。この法律は学校にかぎられているが、広く考えればアカデミアすべての力を使って次世代産業を作りたいとの基本的な考えだ。アカデミアは大学ばかりではない。学会も大切なアカデミアの一翼を担っている。

 特に我々の抗加齢医学会は進取の気概にとんだ8500名もの会員を有するアンチエイジング関連トップの学会である。自分も含めてユニークな先生がたくさんいるのが魅力であり強みである!毎年行われる総会の発表にはきらりと光るものも多く、産業の芽になるものもたくさん含まれている。特にこれからの時代はサイエンスをすべて大学にまかせる時代は終わり、インターネットの普及やビッグデータソースのアクセスの広がりなど知のオープン化によって開業の先生の卓越したアイデアが大切な時代になってきている。

 そこで学会理事会ではイノベーション委員¬¬¬会を立ち上げて、抗加齢医学会から社会の変革を起こせるようなイノベーションを育てていこうということになった。特に副理事長の森下竜一先生は2000年初頭から大学発ベンチャーを日本で初めてスタートし、イノベーションを起こしきた先駆者だ。経験も深い。ここにみんなで学ばない手はない!今まさにアンチエイジング医学とイノベーションという画期的な組み合わせから新しい時代がやってこようとしているのだ。

第1回ヘルスケアベンチャー大賞

イノベーション委員会では学会の先生方にイノベーションの重要性や可能性を理解していただくのにどのような活動がいいか検討した。WEB上でのイノベーション講演会や、イノベーションに特化した講習会などさまざまな意見が出たが全員一致で賛成したのが“ヘルスケアベンチャー大賞”をやろうということだった!アンチエイジングの領域の中のさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き、社会課題の解決につなげていこうという試みだ。新しいベンチャー企業や個人からアイデアをもとにビジネスプランを出したもらいこれを評価し表彰するというものだ。実行委員長を坪田が行い、審査委員長を堀江重郎理事長におねがいした。また主催は抗加齢協会として学会と共催として盛り上げていこうとなった。実務は森下竜一先生の紹介でバイオ・サイト・キャピタルの福田伸生さんと事務局の中村智子さんが担当してくれることになった。この二人がいなければヘルスケアベンチャー大賞はできなかった。この場を借りてあらためてお礼申し上げたい。 何人が応募してくれるかと心配していたがおかげさまで26件の応募があり活況となった。 厳粛な審査のもと会社部門から3社、個人部門から3名が選ばれた(表2)。

 表2:第1回ヘルスケアベンチャー大賞 ファイナリスト(各分野 五十音順)
<企業の部>
 アンチエイジングペプタイド株式会社
  事業内容:機能性ショートペプチドによる化粧品材料の開発
 株式会社イグニス
  事業内容:バーチャルリアリティー(VR)を利用した慢性疼痛の緩和コンテンツの開発
 株式会社レストアビジョン
  事業内容:加齢によって進行する網膜色素変性症の遺伝子治療薬開発
<個人の部>
 小橋 英長
  事業内容:緑内障患者が自己測定可能な簡易型眼圧計(医療機器)の開発
 武田 朱公
  事業内容:スマート端末の顔認証機能を利用した認知機能の簡易スクリーニング法開発
 藤澤 昌司
  事業内容:認知症予防につながる嗅覚機能の回復機器を開発

ファイナルに残った会社部門3社と個人部門3名の事業内容。
それぞれユニークなビジネスモデルを考えて応募してくれた

詳細は表をご覧いただきたい。それぞれ化粧品、疼痛緩和、視覚再生など大変ユニークな製品を作っている。個人部門でも簡易眼圧計の開発、簡易認知機能スクリーニング、匂いでアンチエイジングなどユニークなものばかりであった。これらの合計6チームが先日の第19回抗加齢医学会最中に行われた最終選考会で競い合ったのである。森下竜一先生の司会のもと、各チームがすばらしい発表を行い(写真1)、審査中には経済産業省政策統括調整官の江崎禎英(えざきよしひで)さんの画期的な特別講演が行われた。

 写真1

ヘルスケアベンチャー大賞ファイナルプレゼンテーションの様子。
森下竜一先生司会のもとに6人が素晴らしい発表を行った。

江崎さんの講演はいつもおもしろいが、今回も人生120年時代の新しい考えかたを披露してくれて本当に勉強になった。みなさまも機会があったら江崎さんの講演を一度はお聞きすることを勧める。

最終結果の発表

さて最後に大賞にえらばれたのは機能性ショートペプチドを開発しているアンチエイジングペプタイド(株)と認知機能スクリーニングを開発した大阪大学の武田朱公先生だ(写真2)。詳細を各人から報告してもらったので読んでほしい。あらためておめでとう!このような素晴らしい応募が初回から多数寄せられたことにとても感謝している!これらのアイデアが社会のイノベーションを起こしていけば抗加齢医学の未来も明るい!

 写真2:ヘルスケアベンチャー大賞優勝者の審査委員と優勝者を囲んで。

未来に向けて

 あらためて第1回のヘルスケアベンチャー大賞の報告ができることをうれしく思う。20年前に本日本抗加齢医学会ができて新しい医学が生まれつつあるのを強く感じたのを思い出す。いまアンチエイジングのサイエンスが花開き、これから社会実装されていく時代がやってくる。現在までの病気になってから治療を行うという国民皆保険システムだけでは(これは素晴らしいシステムなので全力で残していくべきだが)、経済も破綻するし患者様もごきげんじゃない!やはり予防医学が大切だ!特に加齢に焦点を当てた予防医学の王様である抗加齢医学が中心になっていくと思うのだ。それを大きな流れとして社会に届けるイノベーションが必要だ!イノベーションはいくらアイデがよくても起こせない。どうやって新しい健康医学を社会に届けるかの勝負が始まっている。これから海外のアンチエイジングシステムを導入するばかりでなく、日本独自のアンチエイジングイノベーションが必要だ。そして日本のアイデア、日本の新しいビジネスモデルで世界を若く健康にし、加齢関連疾患を激減させ、アンチエイジング医学によって日本が外貨を得ていけるようになっていったらいいと強く感じている。来年も第2回ヘルスケアベンチャー大賞を開催予定である。どうぞ皆様引き続きご支援よろしくお願いします。


第1回ヘルスケアベンチャー大賞 受賞

アンチエイジングペプタイド株式会社 代表取締役社長 橋弥 尚孝

この度は、栄えある第1回ヘルスケアベンチャー大賞に選んで頂き、誠に有難うございます。
弊社は、ペプチドを用いて健康で幸せな生活を目指す事を目的としております。
起業のきっかけは、血管新生に関連する新規分子をスクリーニングする中で、新規配列のペプチドAG30を同定した事に始まります。機能解析を進めていくと血管新生作用のみならず、広範な抗菌作用、線維芽細胞活性化作用、免疫応答作用など多彩な機能を有していることが分かりました。これらは創傷治癒に適した作用であることから、当初は創傷治療薬開発を目指した取り組みを開始しましたが、この配列を改変することによる、他分野への応用にも取り組みました。
実際商品化するにあたっては、コストは重要な要素となりますが、アミノ酸配列を短くすることにより、顕著なコストダウンが可能となります。その為に徐々に配列を短くし、検証を行いました。興味深いことに、配列を改変することにより、抗菌活性や線維芽細胞活性化作用の活性バランスが変わることがわかり、それぞれの機能を高めたペプチド作成が可能となりました。そして、創傷治癒目的から化粧品としての利用可能性を探る事に目標を変換し、更に短いペプチドにして線維芽細胞活性化作用が残ったペプチドOSK-9を作成するに至りました。
 OSK-9はヒアルロン酸やコラーゲンの産生増加作用も有しております。実際、シート化した浮遊培養線維芽細胞にOSK-9を添加すると、シートの収縮が確認されました。これは、肌を引き締めてハリを持たせる上で有益な作用であると考えられます。 現在OSK-9は化粧品会社のアルビオンのエイジングケア商品であるアンフィネスシリーズにご利用頂き、高評価を得ております。
 今回ベンチャー大賞候補であった株式会社イグニスのバーチャルリアリティー(VR)を利用した慢性疼痛の緩和コンテンツの開発、株式会社レストアビジョンの加齢によって進行する網膜色素変性症の遺伝子治療薬開発のいずれもが、とても興味深い内容であり、弊社が大賞を頂けた事は幸運だと思っております。
 現在大学を含め様々な研究施設に、起業に値するseedsは多くあると思いますが、研究者単独でビジネスに成功する事は困難です。このヘルスケアベンチャー大賞をきっかけに、多くの既存企業から多くのseedsに注目が届き、多くのseedsが消費者のために花咲く事を願っております。


第1回ヘルスケアベンチャー大賞 学会賞受賞

武田 朱公 大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座准教授

 この度は第1回ヘルスケアベンチャー大賞選考会にて学会賞に選出して頂きましたこと、心より御礼申し上げます。
 高齢化に伴う認知症の増加は様々な形で社会に負担を強いており、その対応は待ったなしの状況にあります。認知症の根本的治療法は未だ確立されていませんが、最近の臨床研究から、早期に発見し適切な介入を行うことで認知症をかなりの程度予防できることが明らかになってきました。生活習慣病の治療や運動療法などにより、認知症の発症リスクを確実に減らせることが分かってきています。
 認知症発症予防を効果的に行うためには、まずは認知機能の低下を早期の段階で発見することが重要になります。しかしながら現状、このステップが上手くっていません。最大の問題は、スクリーニングに使えるような簡便な認知機能評価法が存在しない点にあります。通常は紙ベースでの質問形式の認知機能検査を初期評価として行いますが、検査に時間がかかり、心理的ストレスも大きく、スクリーニング的に施行するには難点があります。
 この問題を解決するため、私共は視線検出技術を利用した全く新しい認知機能評価法を開発してきました。「目の動き」を利用することで、映像を眺めるだけで被験者の認知機能を定量的に測定するというシステムです。タスク映像を眺める視線の動きを記録し解析することで、従来の認知機能検査の精度に匹敵するスコアが得られるようになっています。
 このシステムは応用範囲が非常に広く、大きな可能性があると考えています。健康診断で認知症のスクリーニングを行ったり、最近問題になっている認知症患者の運転免許の適正検査などにも使用できる可能性があります。誰でも簡単に認知機能をチェックできるため、脳の健康状態の維持や認知症予防に活用することが出来ます。また本システムは言語の介在をあまり必要としないため、言語の壁を越えやすく、グローバル展開も可能です。私自身、認知症患者の診療に日々携わっていますが、このシステムは認知症医療に非常に大きなメリットをもたらすと確信しています。
 またこのことは、大きなビジネスチャンスにも繋がると考えています。応用範囲が広範であるため、様々な形でのビジネスが可能です。グローバル展開も視野に入れた準備を進めている段階です。今回、学会賞に選出して頂き、またご支援を賜りましたことは、今後のベンチャー企業に向けて大きな弾みとなります。この賞を頂いたことを励みにして、今後も研究開発とビジネス展開に向けて益々頑張っていきたいと思っております。


医学会からイノベーションを

坪田一男

 イノベーションは「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」と定義付けられています。

 各国がイノベーション政策を掲げ世界的に競争が激しくなっている中で、わが国の国際競争力を維持・発展させていくためには新技術の創造・育成を図り、優れた研究成果を効果的にイノベーションに次々とつなげていくことが重要で、そのために産学官が一体となってイノベーションを生み出すシステムを強化する必要があります。

 そこで、抗加齢医学会もイノベーションに協力をしようと、抗加齢医学会のシーズをもとに新しい可能性を開き、社会的課題の解決の貢献に結び付けようと、イノベーション委員会を立ち上げました。

 「健康・医療におけるイノベーションとは何か」抗加齢医学会の中では、抗加齢医学というものがビジネス化することによってヘルスケアイノベーションを作れると理解しています。

 20世紀は空間を移動する時代。車ができて、飛行機ができて、そこに人類は価値をみいだしましたが、21世紀は時間舳をいかに上るか健康で長く生きるかに価値がシフトしていると思います。
その時にアンチエイジングというのはすごく重要で、産業のシーズになり得、創薬にとってもすごく重要だと思っています。

 国の政策とも載せ、競合して色々と新しい価値を作っていく。ユニークな価値をつくっていく。抗加齢医学会も何かできるはずです。 世界的にみても寿命が長く、先進国の中でも著しく高齢化が進む日本だからこそ、世界に発信できるイノベーティブなものが生まれることを期待しています。

 前人未踏ですが、ロールモデルにるような事業になればと考えています。

 会員の皆様には、多くのご応募をお待ちしています。

イノベーション委員会
委員長 坪田 一男 

プロジェクトの推進に向けた熱い想い

坪田一男

坪田 一男
ヘルスケアベンチャー大賞実行委員長/日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員/慶應義塾大学医学部眼科学教室教授
森下竜一

森下 竜一
日本抗加齢協会副理事長/日本抗加齢医学会副理事長/大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座教授
福田 伸生

福田 伸生
バイオ・サイト・キャピタル株式会社 専務取締役/ヘルスケアベンチャー大賞事務局

福田 本日はお忙しい中、お時間を割いていただき、ありがとうございます。
いよいよ「医学会からイノベーションを」と標榜してヘルスケアベンチャー大賞の募集を開始することとなりました。坪田先生は慶應義塾大学でも健康医療ベンチャー大賞に関わっていらっしゃいますね。

坪田 はい、「慶應医学部からベンチャー100社創出」を旗印に掲げてスタートしました。今年第3回を開催しますが、運営には学生たちが積極的に関わっています。健康医療に関わるベンチャー企業やこれから起業しようという学生・院生・社会人の方々から幅広く応募いただいていますが、良い意味で大学という舞台装置が上手く働いているかなと感じています。 そこで、大学ではなく、医学会だったらどんなイノベーションが起こせるかなと思ったわけです。

福田 それで、森下先生に持ち掛けた?

森下 はい、持ち掛けられました。

坪田 森下先生は、イノベーションの体現者ですから。

森下 イノベーションにもいろいろあると思いますが、過去の延長ではなく非連続であるという意味では、医師でありながら起業してIPOもするという経験はそうかもしれませんね。当時は、今ほどはモダリティの多様化が言われていない時代でしたから、遺伝子治療を事業化しようと考える人間はかなりイノベーターだったかもしれません(笑)。

坪田 疾患メカニズムの解明も進んでいますが、治療法も様々な範疇のものが開発されています。今後は医療の世界にもAIなどの新しい技術がどんどん入り込んでくるでしょう。

森下 AIもIoTもヘルスケアの分野では必須のツールになっていくと思います。それらの進歩を取り込むことで、イノベーションを以前よりも起こしやすくなっているでしょう。でも、ただ起業すれば良いという訳ではないと思います。ビジネスとしてやるだけの魅力が必要です。今の時代は、起業をしても新しいことにどんどん挑戦していかないと、社員が面白くないと言って辞めてしまうそうです。だから、経営も大変です。既に起業された方々も日々新たな事業に挑戦しているのではないかと思いますが、それも今回のコンテストの募集対象ですよね。

坪田 はい、そうです。慶應ではベンチャー創出を目標にしました。若い人たちに挑戦してほしかったのと、サポートする周りの人たちを増やして巻き込みたかったから、分かり易い目標を立てました。しかし、今回のヘルスケアベンチャー大賞においては、アンチエイジングという大命題がありますから、それこそモダリティは問いません。IoTでもAIでも構いませんし、ベンチャーと名前に入っていますが、起業にはそれほどこだわりません。応募下さったビジネスプランをinvention 、commercialization、社会貢献の3点から評価してファイナリストを選び、最後はピッチ形式で大賞を競ってもらいます。だから大企業の中の新規事業でもウエルカムです。

森下 でも、今までの自分たちのビジネスを覆すくらいでないとイノベーティブとは言えないから、結果としてスピンオフベンチャーを創ってしまうかもしれませんね。

坪田 大いに目指して欲しいと思います!大学の研究者も一緒です。組織の中に安住するのではなく、革新的な技術はどんどん世に問う姿勢が必要ではないでしょうか。慶應の場合には副賞として起業支援をビジネス・スクールにお願いしましたが、今回はJSTのプレベンチャー制度であるSTART事業のプロモーターにお願いすることになっています。大学の研究者で起業を考えている方には、フィージビリティー・スタディーのための研究費も獲得できる機会になるかもしれない。

森下 まずは第1回目なので、いろいろなアイデアを幅広く応募してもらうのが良いのではないでしょうか。

福田 今回のコンテストの大きなテーマであるアンチエイジングにも触れていただけますでしょうか。最近はウエルエイジングという言葉もよく見かけますが、

坪田 アンチエイジングもウエルエイジングも元気で長寿を享受することを目指す理論的・実践的医学という意味では同じだと思いますが、我々はアンチエイジングで行きたい。「アンチ」です。

森下 「ウエル」ではなく「アンチ」ですか(笑)。

坪田 そうです。ウエルだとなんとなく改良という感じがします。もっと尖がってもいいのではないかと、アンチ既成概念だからこそイノベーティブなアイデアや成果が生まれるのではないかと思います。どんどん挑戦者に応募してもらって、勝ち残って欲しい。そんなコンテストになったらと思います。

森下 それと、どんな課題を解決したいのかがはっきりしている提案にして欲しいですね。例えば身近な人の何々を救いたいとか。病気でなくても欲求でも構いません。長生きするなら健康でいたい、普通の生活を送りたい、人生を楽しみたいという欲求です。そして同じ課題を抱えている人が世の中に大勢居て、ああそうだなと誰もが共感できるような提案だと素晴らしいと思います。

坪田 その通りですね。第1回だけに手探りではありますが、どんな応募があるか、夢が膨らみます。

福田 ところで、このコンテストは日本医師会に加えて経済産業省も後援していただけることになりました。

坪田 経済産業省は生涯現役社会に向けた取り組みを行っています。健康寿命と平均寿命のギャップを埋めるために私達医師や医学会が取り組んでいることだけではなく、例えば認知症と共生できる社会基盤をどう構築していくかなど、私達の学会、日本抗加齢医学会が果たさなければいけない役割がもっとあると思います。

森下 おっしゃる通りかと思います。超高齢化社会に進む日本の現状は待ったなしです。政府も公的保険外の予防・健康管理サービスを活用して、国民の健康寿命の延伸と新産業創出を同時に達成する官民連携を進めています。私達も現在の薬機法の枠にとらわれない柔軟な発想で、健康の増進に資する技術シーズの実用化を急いで考える必要があります。そして民間がやるからには社会貢献と同時に収益の上がるビジネスモデルでなければ長続きしません。基礎研究は大切ですが、全く新しい発見であっても、実用化・商業化の見えるプランでなければ今回のコンテストには勝ち残れないと思います。

坪田 医学会からのイノベーションですが、そこは学会発表とは一線を画して、このようなコンテストを行うこと自体がイノベーションを起すということですね。同感です。それと、先ほども言いましたように社会において抗加齢医学会が果たすべき役割は大きいわけです。その一環として、このコンテストに入賞されたプロジェクトのビジネス化に関しても、医学的な見地でのアドバイスや監修を必要に応じて用意したいと思います。

福田 医学会ならではですね。

坪田 そうです。新しいことに挑戦している人達を心から応援するコンテストにしたいと思いますので、できるだけ多くの学会員に応募していただきたい。同時に、学会員以外の方々にもこれを契機に当学会の活動に興味を持っていただくことを期待しています。
今回が第1回目ですが、長く続く企画にしたいとイノベーション委員会一同願っておりますので、皆様からの応募をお待ちしております。

福田 本日はお忙しいところ、坪田先生、森下先生、ありがとうございました。

対談PDF
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